テーマ:妻と夫の定年塾

妻と夫の定年塾  

『別れのプロセス』  結婚直前、美緒さんは「この人の妻で幸せになれるのかな」と不安になる。それでも結婚に踏み切ったのは、失恋体験からだった。  四年間愛し続けた人が突然、理由も告げずに、三十歳の美緒さんを振り捨て、若い女性と結婚してしまったのだ。  失恋のわずか二カ月後、上司の紹介で三十八歳の公務員と結婚するこ…
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『脳に涼風、心にゆとり』 みなさま、お元気ですか。私は後期高齢者に仲間入りした直後から脳が疲れるようになりました。考えた末、「新聞連載は中止じゃ。毎日遊んで暮らすぞぉ、ウフフ」と喜んでいたのですよ。  でも、新聞社と熱心な読者のみなさまから「何を寝ぼけとる!」と●咤(しった)激励が飛んできました。それで心を入れ替え、看板も…
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『一人息子』  夫が帰宅するとすぐ、恭子さんは息子のことを話した。今日は会社を休み、部屋にこもって何時間もスマホをいじってたとか、家に不審な電話がかかってきて気味が悪いことなどだ。  三十四歳になる一人息子の気持ちがよく分からない。高校まではまじめな野球少年だった。  二度転職して今は営業マンをしている。先月、予告…
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『春夫さんに脱帽』    行方不明だった二歳の男の子が三日ぶりに山中で保護された。うれしいニュースは大勢の人を感動させた。明子さんにも二歳の孫がいる。同じ八月生まれと知り、「神さま、どうかあの子を助けてください」とお願いしたのが通じたのかもしれない。  幼い子が三日三晩も、どこにどうしていたのか、朝のテレビ番組が詳しく報道して…
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『失恋の秋』   息子が失恋したらしい。相手は半年ほど前、家に連れてきたことがある感じのいい女性だった。  恒司さん夫婦は息子の結婚に期待していた。三十六歳の息子は仕事熱心な会社員だが、少々偏屈なところがあった。「あなたにそっくり」と妻に笑われるほど、父と子は顔も性格も似ている。  恒司さんは「何も聞くなよ。放っといて…
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『威圧』  おれほど完璧な夫がいるだろうか、と勇一さんは自信にあふれ、妻を威圧する。結婚当初から、給料は勇一さんが管理していた。  毎月十分な生活費を渡しているのに、妻は子どもが生まれると「増額してください」と言った。金遣いが荒いんじゃないか、と勇一さんは不満だった。  唯一の趣味は、昔も今も貯金で、銀行に貸金庫を持っ…
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『セクハラ』  妻が一日中留守にする日、博司さんは何となくほっとするのだ。定年後は二十四時間一緒にいるより、夫婦ですれ違った方が会話が増えていい。  今日の午後は、BS放送で懐かしい映画「アパートの鍵貸します」を見る予定だ。結婚前に古い名画座で見た時、「ビリー・ワイルダー監督は都会派喜劇の巨匠だな」と感心した記憶が…
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『歌丸さん、ありがとう』  桂歌丸さんはもういないのか。大切な人だったのに-。喜一さんは思い返した。  六十歳できっぱり定年退職した時はやれやれ、とほっとしたものだ。当時は落語に興味がなかった。  ゴロンと横になっていると、女房が掃除機をかけ始める。背中や足の裏までガーガーと吸い取られるのは、気持ちのいいもんじゃない。…
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『白いハンカチ』  二階のベランダへ洗濯物を取り込みに行くと、夫が昼寝していた。よく寝る人だ。毎日二回は昼寝して、夜も八時間ぐっすり眠る。一日十時間は寝るだろう。  利子さんは夫の寝姿を見て、クスクス笑ってしまった。ソファにあおむけになり、両手を胸の上で組んでいる。  何よりおかしいのは、顔に白いハンカチが載っているこ…
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女は強い!

『女は強い』  週に三度、夫は図書館へ行く。何種類もの新聞に次々と目を通すのが趣味なのだ。そして正午ぴったりに帰宅する。  「今日は面白い記事を見つけたぞ」と知子さんに報告した。広告会社の博報堂に「生活総合研究所」というのがあり、研究員が十年ごとに調査しているらしい。今年は四回目の調査とあるが、十年に一度とはまた、気の長い話…
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『真夏のユリ』  旭さんは長い間、中国にある日本企業で働いてきた。特殊な技術職なので、ひんぱんに東京の自宅へは帰れない。  六十歳になって、やっと帰国できた。定年後も勤務したが、魚釣りが趣味なので二年後に退職を決め、会社から解放された。  子どもたちが結婚した後、旭さんは静かな郊外に土地を買い、引っ越すことにする。妻は…
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北海道胆振東部地震・・・大変な状況に・・・      心よりお見舞い申し上げます 一日、一時間、一分一秒でも早い復旧を祈ります 『前妻の影』  母は響子さんの結婚を、心から喜んではいなかった。婚活パーティーで知り合い、即座に意気投合してしまったことが心配らしい。  「昔とは違うわ。お母さんたちは仲人さんの紹介で…
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『クラゲ』  「ああ、クラゲになりたい」  「きのう二人で見てきたばかりじゃないの。この前は鳥にあこがれてたわ。大空を自由に羽ばたきたい、なんちゃって」  「クラゲがあれほど美しいとは知らなかったんだ。子どもが小さい時に何度か水族館に行ったけど、最近のクラゲは種類が多いし、色や形も華やかだなあ」  「ロングド…
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『疲労困憊』 六十八歳の母が、休日に奈美さんのマンションを訪ねて来るなんて珍しい。「聞いてもらいたいことがあるの」と深刻な顔つきだ。  兄の奥さんが出産したことは知っている。  「私に赤ちゃんを預けたい、昼間だけ助けてくれないかって」  「つまり育児休業期間が終わったけど、保育園はいっぱい。兄さんは身内に頼もうっ…
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『独りが幸せ』  妻が「今週の土曜日、山中さんとこのパーティーに誘われたの。ご夫婦でどうぞって。楽しみだわ」とうれしそうだ。人と話すのが苦手な啓介さんは、気が重い。  結婚して四年間の借家暮らしの後、家を買い、移住したばかりだった。三、四十代の夫婦が多く、妻はすぐに三人の主婦たちと仲よくなった。  子どもが寝た後、好み…
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『酷暑の中で』  近所の人に会うたび、「異常な暑さですねえ」が、朝のあいさつになってしまった。  順子さんが庭掃除に出ると、ブルーの制服にヘルメット姿の警備員らしい男性が「おはようございます」と声をかけてきた。  外壁を塗装する家があると、何日か前に業者のお知らせがポストに入っていたっけ、と順子さんは思い出す。工事で見…
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『夢見るじいさん』  遊び仲間が大勢いる妻は、家でじっとしていない。俳句の会に水泳にシャンソンと、毎日忙しく楽しそうだった。  「あなたも六十代のうちにやりたいこと見つけないと、すぐじいさんになっちゃうわよ」  と脅かす。  町外れに「四季の里」という、高齢者向けの福祉センターがあると聞いた。車で前を通った時、想…
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『いってらっしゃい』  毎朝、靖子さんは「いってらっしゃーい」と、友達のご主人、徹さんの通勤を見送る。駐車場から車を出して靖子さんの家の前を通る時、徹さんは窓を開け、笑顔で手を振ってくれる。ちょうど花に水をやったり、ごみを出したりする時間と重なるのだ。  仲よしの美保さんに「私、おたくのご主人に、いってらっしゃーいって手を振…
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『免許返納』    去年の夏、純夫さんは車の免許を自主返納した。目が見えにくく、眼科で「緑内障の危険があります」と注意されて、きっぱりと車の運転を中止したのだ。  七十三歳の妻は免許証を持っているが、運転は純夫さんまかせだった。「車がなくてもミニバイクは小回りがきくし、便利だもん。私はまだまだ走り回るわ。あなたより五歳若いしね…
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『超早食い』  夏は焼き肉が一番だ。「今夜は鉄板焼きにしてくれ」と、健造さんはソファに寝そべったまま妻に言う。昼食の片付けを終えた妻がつぶやいた。「毎日、三度の食事のことしか頭にないのねー」  健造さんは聞こえないフリをした。やることがないし、他人が苦手なのでほとんど出かけず、テレビを見るのが日課だ。耳が遠くなったのか、外ま…
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『要注意人物』  「あの人に注意」といううわさは広美さんも知っていた。  最近交代したシルバー人材センターの会長だ。突然、料金を一時間千五百円に値上げし、市民からの発注が減った。腕利きの工員だった会員も「公園清掃ばかり」と退会したそうだ。割のいい仕事は八十歳の会長が先取りするという。  近所の人に「玄関前の階段に手すり…
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『体の声を聴く』    章さんは働くのが大好きだ。定年後も休むことなく満員電車で通勤し、それが苦にならない。  再就職して三年過ぎたころだろうか。時々、変な熱が出るようになった。三六度台で安定していた体温が、三七度半ばまで上がり、わけもなく体がだるい。  病院の医師から「カゼでしょう」と言われ、薬をもらった。まあ、大した…
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『船が出るぞぉー』  五年ぶりに寿子さんは女子高校のクラス会に行った。みんな七十歳になり、今日が最後の会なのだけど、参加者は二十人足らずだ。  住んでる場所がバラバラ、近況報告も代わりばえしないクラス会は、品よく静かに終わる。電車に一時間近く揺られるうち、寿子さんは疲れて居眠りしてしまった。  あわててエレベーターで下…
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『殴る男』  息子は小さい時から気が弱く、近所の子にいじめられる。活発な姉娘と比べ、進さんは「おまえの育て方が悪い」と妻を殴った。  「お父さんごめんなさい」  息子はメソメソ泣いて、母親をかばう。強い子に育てたいのに、絵を描いたり本を読んだり、家の中で静かに遊ぶのが好きな息子は妻にそっくりだ。  なぜ男らしく外…
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『温かい手』  バスを待っていると、路子さんに会った。千枝さんは「ミコちゃん久しぶりね」とうれしくなる。  路子さんと千枝さんは気が合う友達だ。「おはようございまーす」とあいさつし、ハグする形のまま空振りしてすれ違う。ウッシッシと喜ぶ。見てる人が「何じゃ、あの二人は」と、あきれるのが面白かった。  バス停で、路子さんは…
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『朋子先生』  名前を呼ばれて、正則さんは歯の治療室に入る。三つある治療台はカーテンで仕切られていた。  「こちらへどうぞ」と、歯科衛生士さんに奥のいすに案内され、前かけみたいなものを首に結びつけられる。ゆっくりいすが倒された後は、先生を待つばかりだ。  この時間が正則さんには苦痛だった。「歯医者さんへ行くのが大好き」…
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『男の料理教室』  市の福祉センターで開かれている「男の料理教室」には、血のにじむような長い歴史がある。メンバーの中には、初めて料理をした人もいた。血がにじむどころか、包丁を握ったとたんに自分の指まで刻んでしまい、「お、おれは男だぞ」と涙をこらえた。  教室は当初、女の先生がいたらしい。今は定年後の男性たち十二人が順番に担当…
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『爪を切る』    妻がブツブツつぶやきながら爪を切っている。  「どうして年取ると爪って伸びるのが早いのかしら。先週切ったばかりなのにいやんなっちゃう」  修造さんは、平昌五輪カーリング女子の選手がかわいい声で発した「そだねー」をマネした後、妻を見て言った。  「手だって足だって、十日もしないうちに丈夫そうな爪が…
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『買い物達人』  自転車で大量の買い物をしてきた英樹さんは、お隣の奥さんに出会う。犬を連れ、朝の散歩に行くところらしい。  「あれ及川さん、犬の散歩なんかしてる場合じゃないですよ。スーパーの折り込み広告見た?」  「まだ見てないの。お店を改装してたスーパーでしょ」  英樹さんの近所には、大型のスーパーマーケットが…
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『春よ春』  特別寒かった冬が去り、春が来た。喜美さんの小さな庭は花盛りだった。家の前を通る人たちが「わあ、きれい」と喜ぶし、むっつり顔の男性まで「見事ですね」と顔をほころばせる。  一人暮らしになって、急に体のあちこちが弱り始めた。病院や近くの診療所を訪ね歩き、ようやく親切な内科医院が見つかった。  医師は「犬や猫を…
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